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蘭読蘭文(5)

2015年11月10日 - 蘭読蘭文 / 連載

文 / 絵  大石蘭

第5回 女盛りを如何しよう?― やることなすこと「美」につなげる執念( 『 妙齢美容修行』辛酸なめ子 

「妙齢」という言葉には、「いい年の女」というようなイメージがついている気がするけれど、本来は「女のうら若い年頃」という意味だという。
その世間的なイメージと本来の意味の両方を鑑みると、客観的に若くてもそうでなくても、女にとって自分の年齢を意識しだす年頃が「妙齢」なのかな、という気もする。
そしてその女盛りには、いかにキレイさを引き出すか、取り入れるか、というところに、膨大なエネルギーが注ぎ込まれるのかもしれない。
美意識の高い人やもともと美しい人やセレブな人はもちろんのこと、ルックス的にも経済的にも自分の現実を知っている人ほど、身の丈に合いつつ、最大限に効果のある美容法を見つけることに執着するのではないか……と、後者の私は思う。

『妙齢美容修行』は、著者の辛酸なめ子さんがさまざまな世の中の事象から考案した、独自の美容法が紹介されているもの。
エレガントなワンピースを着て心身ともに女性らしくなる「ワンピ美容」、犬と暮らすことでやさしい表情や母性をひきだす「犬美容」など、その数70種類。
それは美容専門家が雑誌やTVなどで紹介する本格的な美容法とは違い、ほとんどがこじつけや妄想に端を発するもの。しかしなめ子さんの、生真面目でどこかとぼけたような文章を、ほくそ笑みながら読んでいくうちに、書かれていることがだんだんと信憑性を帯びているような気になってくるのが不思議だ。

「ワンピ美容」のように、身につけるもの、衣食住にかかわるもので美意識を高める美容法もさることながら、必要経費ゼロな美容法も。
美人と接することで、美のオーラを吸収し、心を豊かにして自分も美しくなる「美人修行」、感謝の言葉を唱え続けて心から負の念を消し、運気を上げる「ありがとう美容」など、結構スピリチュアル入っている……。

なめ子さんの文章には、ナチュラルに「占い師」や「霊能者」が登場するのも気になるが、占いというのは自分の人生を客観視するエンターテイメントだと思う。
大学生のとき、たまたまタロット占いをしてもらってから、私にとって占いに行くことはマッサージみたいなものになった。滞りをほぐして元気が出るような、楽しみのひとつだ。
占いというと、意志の弱い人に依存させて洗脳するような印象もなくはないが、占い師さんとの相性の善し悪しにもよるだろうし、私は意志の強い占い好きなので、自分の目標に応じて言われたことを素直に実行するため、結果として占いが当たる。
また、なかなか気が進まないことをするときは、ネットで大安カレンダーを調べ、日取りのいい日に重い腰を上げてやることにしている。それだけで余計な気分の重さがなくなり、なんとなくうまくいく気がするので、心が晴れて仕事も進み、顔も明るくなって、美容につながっている気もする。

さらに、この本で紹介されている「花粉美容」、「風邪美容」など、ネガティブなものを逆手にとって美容に利用する方法には、転んでもタダでは起きないような美への執念を感じる。ちなみに「花粉美容」は、花粉を「メス」のフェロモンのかたまりととらえる美容法、「風邪美容」は風邪による「デトックス効果」を期待する美容法。

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それにしても、この本の中にも何度も出てくる「デトックス」という言葉……女はなぜ「デトックス」に惹かれるのか。
私たちは、毒を出すこと、に至高の癒しを求めている。妙齢の女の生活の中には、食品添加物のように積もり積もって心身を蝕んでいくストレスがあふれているのだ。
そんなとき、サプリやスイーツ的なものをプラスするより、不純物をマイナスしていくほうが、心身へのご褒美になる。
私も対応された店員さんが感じ悪かったときや、ざわざわするSNSの投稿を見てしまったときなどは、お風呂上がりに塩ボディローションをぬることにしている。それだけで、身体に染み込んだ負のオーラが洗い流されていく感覚がある。もっとひどいときは塩風呂に入る。

なめ子さんにならって、今の私が身体を張って実践している美容法は、「出産美容」に尽きる。
出産にデトックス効果があるというのは最近よく言われていることのようだけれど、分娩のときに身体の要らない血が全部出ていくような感覚があって、貧血にもなるけれどお肌の調子がよくなる。出産と授乳によって体重は一気に減るし、食べられないものや飲めないものがあるので食生活が整う。そして、子どもを抱えて動くことで、エネルギー消費が激しく、筋肉もつく。究極のダイエット&エクササイズである。さらに、いつも赤ちゃんに向かって笑いかけるので、表情筋がやわらかくなり、自然な愛され笑顔が身に付くかも!?

もはや、太ることは「チャージ」、お腹を壊すことは「デトックス」だと思えば、どんな体調のときも、美に向かって一歩前進している気がする。
一日にすることすべてが「美」につながるように念じるのは、自分の人生を前向きに歩いていくためのサバイバル術なのだ。
(*タイトルは椎名林檎「長く短い祭」より!)

 

 

 


◎ 大石  蘭
1990年 福岡生まれ。東京大学教養学部卒・ 同大学院修士過程修了
在学中より雑誌『Spoon.』でエッセイ、イラストを寄稿し注目を集める。
雑誌・WEBなどでの同世代女子の思想を表現するイラストレーション制作、文章執筆をしながら活動。  著書に『妄想娘、東大をめざす』(幻冬舎)
http://oishiran.com/

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