Nath_X_banner02

ナスルーラのX(クロス) Part 01「しろの記憶」

2018年5月16日 - ナスルーラのX / 連載

ナスルーラのX(クロス) …

視覚イメージ (写真)の作品には、心的表象や記憶などさまざまな意味を持った情報がふくまれている。
そこにはもちろん意識的に創りだした作家のコンセプトも存在する。
しかし、既存のイメージを無垢な視点で観たとき、その想像力のなかでうまれたテキストを重ねると、どう変化してゆくだろうか。

このシリーズは、写真家・山崎雄策氏から提案されたイメージをもとに、ゲストを迎え未知のイマジネーションによって、<写真 × 文章 > という掛け合わせを試みる実験的なコラボレーションです。

 


 

Part 01  「 しろの記憶 」

Photo image:山崎 雄策

Text  :小林 早代子

 

Image 01

01

(c) Yusaku yamazaki


君を色にたとえると白だと言ったことがあった。
私を色にたとえると何色だと思うかと彼女がしつこく尋ねるので答えたまでだった。白だと答えると彼女は不服そうにしていた。きっと彼女の望む回答ではなかったのだろう。 本当は答えたくなかった。彼女にふさわしい色が何色か、納得いくまで考えて決めたかった。君の機嫌を損ねたくなくて、思考の一番手前にあった色をそのまま口に出してしまった。
季節にたとえたら、宝石にたとえたら、動物にたとえたら。
彼女はしばしば私に質問を投げた。私はその度に答えあぐねて、ようやっと答えを絞り出しても、彼女はふうんで済ませて頬杖をつき、窓の外なんか眺めてもう違うことを考えてしまう。
多分その質問に意味なんてなくて、気まぐれで読んだ星占いのように、自分に都合の良い内容だけ覚えておいてあとはうっちゃってしまうのだろう。そんなのに真面目に取り合うのもばかばかしい。
それでも、私は彼女にまつわることはひとつもいい加減にしたくなかったのだった。
数え切れないほど投げかけられた質問のほとんどについて、自分がなんと答えたのかもろくに覚えていないが、君の色は白だと答えたことだけは鮮明に覚えている。そのせいか、彼女を思い出す時は、いつも決まって色がない。それとも、単に時が経って、私の中の彼女が損なわれつつあるということに過ぎないのだろうか。
色だけでなく、音もない。ときどきは動きもない。じっとりとした湿度や、擦れるような渇きはある。ごく稀に、においもある。
私の中の彼女は、風化しないまま、ただじりじりと腐敗していくのでたちが悪い。

 

Image 02

02

(c)Yusaku yamazaki


君の悪い夢にいつでも加担してあげるつもりでいた。
君とこの街を出て行くときに二人で聴く曲を考えていたのだ、本当は。

 

Image 03

07

(c)Yusaku yamazaki

 

  彼女について、懺悔したいことはありません、自分のせいだと考えることこそおこがましいと思います。責任を感じることすら傲慢です。彼女のことを思い出すと、ときどき、どうにも頭がぐらついて、しゃがみこみたいような気分になることがあるけど、実際にしゃがみこむことはありません。ずいぶんと時間が経ったので。

 

 


小林 早代子 /小説家

1992年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業。2015年、第14回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞受賞。2018年春に、受賞作品を含む初の短編小説集『くたばれ地下アイドル』(新潮社)を出版。

 

山崎 雄策 /写真家

千葉県生まれ。「TOKYO FRONTLINE PHOTOAWARD #4」 準グランプリ 、「キヤノン写真新世紀2014」 優秀賞(清水穣選)ほか受賞。「SHOWCASE #4 curated by minoru shimizu」(eN arts)などの企画展に出展。近年、個展「さかしま」(Alt_Medium) を開催。
https://www.yusakuyamazaki.com/

 

 


Work planning:
Yusaku Yamazki
Rin Hirano (apartmentweb)

 

このエントリーをはてなブックマークに追加

› tags: コラボ / 写真 / 小林早代子 / 小説 / 山崎雄策 /